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- 教育学博士
- 専修大学文学部
英語で すわる=sit では無い場合もある
私達はともすると英語を「一対一対応式」の日本語訳で、覚える傾向があります。それでうまく行けば良いのですが、実際にはそうではないのが現実です。
少し長くなりますが、「和文英訳演習室」(『英語教育』大修館書店)でこんなことがありました。
「演習室」では読者が、日本文の課題を英訳し、投稿をしてきますが、「草にとまったトンボ」という箇所の訳で、多くの投稿者が、
“dragonflies sitting on the blades of grass”
と訳したのです。何かおかしいですよね?そうです!“sitting”がそれこそ「すわっていない」のです。英英辞書で確認しますと、
“If you are sitting somewhere, for example in a chair or on the floor, your weight is supported by your buttocks rather than your feet.”(COBUILD)
とあり,“buttocks”が“sit”の決め手であることがわかります。
ところがトンボには「腰」(buttocks)はない!そういう昆虫を、腰を必要とする動詞と結びつけることにcollocation(連結)の無理があったのです。これは盲点でした。公式的に「すわる=sit」と覚えていたのでは英語の真の姿はつかめないのです(ここはset /perch onなどが適当)。
通訳者養成にあたってもこのような「公式的覚え」は非常に重要な問題で、とにかくわかっているような単語でも、それをdefineしたり、他の言葉で言い換えをしてきました。ノートに書いてdefineしてみても良いと思います。まずは中学校の基本語あたりの名詞、動詞、形容詞、副詞をおさえましょう。
こういうことを続けていますと、その副産物として英語の論理を鍛えることもできます。例えば、「鍵key」を、みなさんはどう定義されますか?英英辞書で見ると:
(例:key)
a small specially shaped piece of metal that you put into a lock and turn in order to lock or unlock a door, start a car etc. (Longman Advanced American Dictionary)
とあります。この例では「小型で、特別に形作られた、金属片で」といった具合に、大切な情報が主要なものの順番に並べてあるのです。
この短い定義の中にこそ、母語話者の物の見方、大げさに言うと「世界観」が見受けられます。電子辞書の便利な機能を使用すると、そんな世界観にも簡単に触れることができると思います。
- 田邉 祐司
- 専修大学文学部教授。早稲田大学院客員教授
博士(教育学)。専門:英語教育学、英語音声指導論。元文科省中教審外国語部会委員、日本英語音声学会理事、日本英語教育史学会理事、英検1級、国連英検特A級試験官。NHK「基礎英語1」講師。編著書『がんばろう!イングリッシュ・ティーチャーズ』(共編、三省堂)/中学校検定教科書『New Crown English Series』(共著、三省堂)他。