英語を話す100のヒント

2012/11/19
どんな凡人でも、英語は使えばうまくなる
  • 早稲田大学教育学部
松坂ヒロシ教授

昭和40年代の話である。

 

伊藤善啓という同期生(現・島根県立大学教授)と、英語の上達のために、ある約束をした。「おれたちは、これから、一切日本語で話すのをやめよう。すべての話を英語でやろう。」


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早稲田大学教育学部の校舎の前に、円形の植え込みのちょっとしたスペースがある。伊藤と私は、この植え込みでのおしゃべりを、すべて英語でやった。いや、やろうとした。ふたりとも、大学入学以前に英語を話す訓練など受けていない。まともにしゃべれるわけがない。われわれがしたことは、英語をしゃべると言うより、「ウーン」という苦悩のうめき声の合間に、英単語をポツポツとはさむ、といった程度のことをしていたに過ぎない。

 

周囲から見れば、異様な光景であったに違いない。しかし、伊藤も私も、人目は気にせず、とにかくこの習慣を続けた。

 

 

教育学部英語英文学科で、中尾清秋教授にお世話になった。中尾先生は、授業はすべて英語でなさった。教室の外でも、先生は教え子と英語で話をされた。卒業後、私は、母校の早稲田に英語教師として採用されたが、その中尾先生が英語英文学科の学科主任で、時々先生のお仕事のお手伝いをおおせつかった。指示はすべて英語だった。時間割のこと、お金のこと、学科の懇親会の準備のことなど、種々の用件について英語でご注文があった。

 

お手伝いは楽な仕事ばかりで、何の負担も感じなかった。しかし、英語で何かをご説明しなくてはならないとき、大汗をかいた。学科の会議は日本語で行われたが、席上、中尾主任が私に向かって何かおっしゃる際には、先生のことばは英語だった。教え子とは英語で、という原則を、こんな場面においてさえ先生は貫かれた。 

 

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こんにち英語教育は大変な発展をとげ、ナニナニ・メソッドと呼ばれるものがさまざま存在する。私が経験した、とにかく何が何でも英語を使う、という学習法は、専門家の口の端にのぼる教授法の、どれに当たるのだろうか。英語しか使わない教授法としては、ダイレクト・メソッドがある。しかし、伊藤と私がしたことや、中尾先生が私にして下さったことは、ダイレクト・メソッドとは違うようである。学習者を英語漬けにする、イマージョン教育というものもある。しかし、私が経験したのは、これとも違う。

 

というわけで、「メソッド」らしい名前は、にわかにはつけられない。私も伊藤も、特定のメソッドにのっとって練習をこなして行こう、などというつもりで英語を話していたわけではない。中尾先生も、おそらく、特定のメソッドをお使いになっているような意識はお持ちでなかっただろう。


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要するに、英語は、使えばいい。使えば、どんな凡人でも、少しはうまくなる。そんな単純な発想しか、このことの背後にはないのだと思う。

 

「単純メソッド」ならば、名前として、まあ、いいか。

 

※英会話上達研究会の責任において原文を縮め、改題しました。

松坂 ヒロシ
早稲田大学教育学部教授
早稲田大学教育学部卒、東京外国語大学修士課程およびレディング大学修士課程修了。専門は英語音声学、英語教育。現在、早稲田大学教育学部教授。元NHKラジオ英語会話、NHKテレビ英語会話III、NHKラジオ英語リスニング入門講師。著書『英語音声学入門』(研究社)他多数。
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