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- 英語の文法と発音の大切さ
- 早稲田大学
発音◎ 文法× < 発音× 文法◎ ?
高校生を英語圏の国へ派遣した文化交流の報告会に同席したところ、物怖じせず、まがりなりにも英語で体験談を述べ報告を行っていた。しかし、内容はというと、そこには大きな壁が二つ立ちふさがっていた。一つは文法の壁、もう一つは発音の壁。この二つの壁を、なんとか英語で話そうという「意欲」と体験に裏打ちされた一種の「度胸」で乗り越えていたように感じる。
もし、もう少し文法の知識を活用し、正しい文型で話すことが出来るならば、もっとintelligibility (分かりやすさ)は上がると思った。どうしても気持ちがはやって単語の羅列におわる。それでも一つ一つの単語の発音が正しければある程度は通じる。しかし、個々の単語の発音も怪しいと言うことであれば、通じさせるのはおぼつかないであろう。
では、発音は不備だが、文型は正しいとしたらどうだろう。私はそれでも文型が正しければ通じるような気がする。つまり文法か個々の単語の発音のどちらかの条件が整っていれば、そしてさらにsupra-segmentals (リズムやイントネーションなど)が適切に加えられると、そのことばが使われたsituational context (状況と場面)に照らしてなんとか通じるのではないだろうか。
一番始末が悪いのは、発音が不正確な上に、文構造が整っていない発話である。つまりわかりやすく言えば、単語を羅列しそれを独自の発音で話す場合である。
高校生の英語の報告を聴いていて、深刻なのは文法ではないかとの印象を免れない。それもごく基本的な英語の文が、少なくとも話すときに作れないこと。例を挙げれば、主語があっても動詞が無かったり、過去のことを言うのに平気で現在形を用いたり、人称代名詞が文の途中でいつの間にかheがsheになったりする。これはコミュニケーションを取ろうとする態度や意欲に振り回され、肝心のことばが取り残された結果にほかならない。コミュニケーション重視の思いだけが一人歩きをし、その付けが回ってきたとも言える。
英語を話す時、何が一番難しいのかを考えると、私はこの英語の統語ルールに従って正しい文を必要に応じ創り出すことだと思う。相当、英語が出来ると自負する人でも、英語の統語体系を自分のものにしてその中で、自由に思考し、その体系を駆使して英語で話の出来る人は案外、少ないのではないだろうか。
英語で何かまとまったことを話そうとする時、内容を中心に話そうとすると、途中で英語が付いてこなくなる。無意識のうちに複雑なことになると日本語で考えているからであろう。そこでそうならないために、自分の制御可能な範囲の文や語彙で話そうとすると、今度はどことなく内容が限られ薄められてくる。
高校生の話に戻るが、発音にも改善の余地が残されていた。個々の単語はなんとか聞き取れたが、まとまった発話単位としてのリズムやイントネーションは不適切で全体としては聞き取りにくかった。ここにも過度のコミュニケーション重視の姿勢が窺われ、とにかく英語を口にすることを優先させるために、どうしても正しい発音の修得は置き去りにされている感が否めない。唯でさえ軽んじられる発音教育がいまや発音記号すら扱わず、安易に他国の言語事情を受け入れようとしているのではないか。
この状況を少しでも改善するためには、日本の英語教育もやはりEFL(English as a foreign language:外国語としての英語) を基底にしながらも究極的にはESL(English as a second language;第二言語としての英語)の方向へ向かうべきであろう。
ある外国語をあくまでもその国の言語として学習し習得することと、ある外国語を自国の生活言語として、いわば取り込んでいくこととは本質的に違うのではないか。日本人と英語の関係は前者であり、先ずはTEFL(Teaching English as a foreign language:外国語としての英語教授) である。従って、英語という言語を外国語として学ぶことであり、その場合は目標言語としてのモデル(英語母語話者の英語)がどうしても無くてはならない。従って、私たちの英語教育の現場には発音のモデルが必須ではないだろうか。
- 東後 勝明
- 早稲田大学名誉教授
早稲田大学教育学部英語英文学科卒業、同専攻科修了。ロンドン大学大学院修士、博士課程修了。専門は英語学、英語教育学。13年半にわたりNHKラジオ「英語会話」の講師をつとめる。主な著書:『教育音声学の研究』(音羽書房)、『コミュニケーションとしての言語教育(翻訳)』(研究社)、『なぜあなたは英語が話せないのか』(ちくま新書)、『英語ひとすじの道』(筑摩書房)、『必携英語発音指導マニュアル』監修(北星堂)他多数。